後期高齢者医療制度導入で国民は騙された。制度を作ったやつは天才だ。

後期高齢者医療制度が発足してしばらく経つ。発足当時、国は現行制度に比べて不利にはならないと説明していた。私は当時自治体で制度を担当していたが、最近になって老後の資金計画を立てていて愕然とした。75歳になったら保険料支出が多大になることに気が付いた。一体、当時の説明は何だったのか。当時の説明を振り返って考える。

後期高齢者医療制度はかつては老人保健法として制定されていたものだが、健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年6月21日法律第83号)第7条の規定により、題名改正を含む大幅な改正が行われ、2008年4月1日に現在の題名に改正、施行された。

当時の制度切り替わりのときに私は老人保健を担当していた。当然、様々な説明は旧制度を担当していた私たちが行った。対象者の人たちは制度が変わると、何が変わるのか、不利益になることはないのかと心配になり我々の話に聞き入った。

当然、想定されるQ&Aは用意されており、それに基づいて対応した。結局は不利益が生じないかのように見えることに皆安堵して特に混乱は生じなかったことを覚えている。

でも、蓋を開けるとそうではなかった。

私の独断と偏見に満ちた内容であることを予め断っておくが、その内容は以下のとおりである。

老人医療制度の変遷

1973年、老人福祉法

選挙では、いつの世も国民は甘いささやきに弱い。甘いささやきを言う候補が悪いのか、そうした候補に票を入れる国民が悪いのか。医療費をタダにするという無責任な候補が連続して当選したという過去がある。

1967年東京都知事に当選した美濃部亮吉は1969年12月21日から高齢者の医療費無償を行ない、これを契機に他の自治体も追随し無償化を行うなか、与党は無償医療はのちに必ず財政赤字を招くと反対していた。その結果地方選挙で与党の敗北が続くこととなった。

このため、これでは選挙に勝てないと踏んだ田中角栄政権は1973年1月1日から70歳以上の老人医療費の無料化を実施した。

老人保健法

1982年、旧法にあたる老人保健法が老人医療費による財政圧迫を打開するために制定された。さすがに医療費無料には限界があると悟った政府の賢明な政策だ。これにより1983年からは、老人医療を公費負担医療から社会保険制度に転換すること、また老人になったとき病人にならないように保健事業も含まれる内容となっていた。最終的に自己負担割合は1割となった。

後期高齢者医療制度の発足

2008年(平成20年)施行の高齢者の医療の確保に関する法律を根拠法として制度が発足した。

医療費無料のつけ

老人福祉法制定時は、まだ高度成長の余波が国を覆っている時代であり、高齢者の絶対数も少なかった時代であることは認めるとしても、医療費が一銭もかからないとなると、病院は高齢者のサロンと化したのも必然だ。10年間という長い間、無償化し続けたつけは大きかった。

1972年度に3兆3,900億円だった歳出の内の医療費が、高齢者の無償化制度が始まった翌1973年度は、5兆3,700億円に激増した。たった1年間で2兆円もの歳出増となったわけで10年間もの間そうした状況が続いた。

その後、老人保健法が制定されたといえ、今と同じ医療費の1割負担は2001年と相当遅れていた。少子高齢化もあり、今後の医療費抑制をどうするかという視点が出てくるのもおかしくはない。

そこで打ち出されたのが後期高齢者医療制度となる。

政権交代が円滑な導入につながった

後期高齢者医療制度は2008年4月1日に現在の題名に改正、施行されたが、その結果、どうなったか。私は、2009年8月30日に自民党が下野した理由はこの制度を制定したためと思っている。

もちろん、様々な要因はあるとは思うが、第1の要因ではなかったのではないだろうか。

当時の国民は「後期高齢者医療制度とは名前が悪い。「後期」とは何事だ。この年齢になったらすぐに死ぬということか。」とやっきになって制度制定に反対した。

野党も猛反発した。その結果、民主党が政権を担うようになった(と私は思っている)。

政権を担った民主党は今度は批判を受ける側になった。と同時に、野党となった自民党が自分で作った政策を批判するはずがなく、結局、後期高齢者医療制度を大きく批判する勢力はなくなった。

それでもくすぶっている批判をかわすためにネーミングが悪いというなら名前を変えれば良いのではないかと名前を「長寿医療制度」と銘打った。

こうして制度は何とか軌道に乗ることになったのだが、ここで見たように軌道に乗ったのは民主党に政権が変わったためだ(と私は思っている)。

国民は後期高齢者医療制度にまんまと騙された

まあ、制度というよりも説明に騙されたと言って良いだろう。もともと後期高齢者医療制度は財政赤字のために発足した制度であることは言うまでもない。医療費無料政策のつけ回しの回収という側面もあるだろう。

我々は「制度発足しても皆さまの負担は何も変わりません」と説明してきたが、後期高齢者医療制度は財政赤字のために発足した制度であるのならこの説明は全くのウソでなくてはならないし事実ウソである。いや、変わらない人もいたので一部では本当だったのかもしれないが、全体でみるとウソである。

負担を増やす目的の制度が現状に比べて不利益がないとするならば制度を作った意味はないことに気付くべきだ。

気が付いていても、国の財政を思うから何も言わなかったというのは、医療費無償化に手を貸した国民であるならば説得力は弱い。

もちろん、国は情報を隠しはしない。法律に基づいているものであり、法律にもきちんと書いている。ただ、内容が分かりにくいだけだ。

少々法律を引用すると

本制度は、国民の高齢期[6]における適切な医療の確保を図るため、医療費の適正化を推進するための計画の作成及び保険者による健康診査等の実施に関する措置を講ずるとともに、高齢者の医療について、国民の共同連帯の理念等に基づき、前期高齢者に係る保険者間の費用負担の調整、後期高齢者に対する適切な医療の給付等を行うために必要な制度を設け、もって国民保健の向上及び高齢者の福祉の増進を図ることを目的とする(第1条)。そしてその理念として、国民は、自助と連帯の精神に基づき、自ら加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、高齢者の医療に要する費用を公平に負担するものとし、又、国民は、年齢、心身の状況等に応じ、職域若しくは地域又は家庭において、高齢期における健康の保持を図るための適切な保健サービスを受ける機会を与えられるものとする(第2条)。この目的に基づき、高齢者の疾病、負傷又は死亡に関して必要な給付を行うものとする(第47条)。

法律となると本当にわかりにくい。ここでキーワードを抜き出ししてみた。

・国民の共同連帯の理念
・前期高齢者に係る保険者間の費用負担の調整
・高齢者の医療に要する費用を公平に負担
・自助と連帯の精神
・常に健康の保持増進

ぼんやりと見えてくるだろう。ひとことで言うと、①みんな健康に気を遣った生活をして医療費を抑えようよ。②医療費については、みんなで連帯して負担して行こうよ。というものだ。

前者は良い。問題は後者だ。みんなで連帯して負担するという意味は、①保険料を負担していなかった者には負担してもらう、②現役で働いている者からも一層負担をしてもらう、の2点に集約される。

保険料を負担していなかった者には負担してもらう

ここでは二つの側面がある。協会健保などの社会保険の被扶養者となっている者は保険料の負担がない。このため、75歳となったら無理やり今までの保険から脱退させて保険料を徴収しようとするものだ。もうひとつは、国民健康保険に加入している者については減免規定がある。その減免率は大きくて自治体にもよるが、7割以上を減免することもある。このため、後期高齢者医療保険にして国民健康保険よりも減免率を低下させることができるようにした。

現役で働いている者からも一層負担をしてもらう

社会保険から脱退した者の医療費は社会保険側では当然負担しなくなる。その分を加えて、一定額は後期高齢者医療制度に対して支出してもらうという負担金を発生させた。もちろん、こうした費用は社会保険に加入している者が負担することとなる。すなわち現役で働いている者の負担になるというもの。

具体的にどのように説明したか

説明に対する質問は大きく分けると?手続的な質問、?保険料の質問に分けられる。後者についての質問は以下のようなものだったと記憶している。

Q 保険料負担が増えることになるのではないか
A 世帯によって異なります。単身者はほぼ変わらないと考えられますし、複数世帯でも保険料が下がることもあります。

保険料の計算は複雑だ。それを新旧で対比して個人の保険料の増減を計算することなど瞬時には不可能と言っていい。質問をする者も現在の保険料の計算基準すら分からないなかで、今後の計算方法を示されても理解できっこない。いきおい、保険料が下がることがあるという言葉で安心感を得てそれで終わりとなる。

単身者を例示することも絶妙だ。単身者は当然ひとりしかいないから、国保も健保も後期高齢者医療も対象者はひとりである。対比もしやすい。ここの部分は確かに殆ど変わらなかったように記憶している。加えて複数世帯であれば下がる場合がある。これも事実だ。とすると反論の余地はない。問題は複数世帯の殆どが上がることが多いということなのだが・・・・・。

Q 子供の扶養に入っているが新たに保険料を納めることになるのか
A はい、そうなります。ただし、激変緩和措置が取られますので、負担は僅かなものとなります。

今まで扶養に入っていて保険料を負担しないで済んでいた者に対しては新たな負担が発生することになる。いくら減免になるとは言え、減免は2年で終わってしまうし、減免率はだんだん悪くなっている。長い目で見たら僅かな負担なんかでありゃしない。これも先の例と同じく、何となく国の配慮があって問題のないように聞こえる。

このように減免があることや平均的には負担が増えても(負担が増えるということは一切言わないで)一部で割安になるということを前面に出して説明した。

情報は全て開示するが、難しい文言など聞き手はわからない。

最後に当時の国の国民向けパンフレットを見ると次のように説明されている。

Q 現在、加入している共済組合等の保険証はどうなるのですか。
A 後期高齢者制度に該当する方々については、共済組合等の保険者から脱退することとなりますので、保険証(組合員証・組合員被扶養者証等)は共済組合へ返還していただくこととなります。

これは事実だが、その結果、後期高齢者医療保険に入って新たな保険料がかかることには言及していない。

Q 平成20年4月から「後期高齢者医療制度」が始まると聞きましたが、この制度は、なぜ必要なのでしょうか。

A 老人医療費は、平成18年度推計で11.1兆円となり国民医療費の約3分の1を占めており、高齢化の進展にともない、今後も増加する見通しです。75歳以上の後期高齢者は、生理的機能や日常生活動作能力の低下による症状が増加するとともに、生活習慣病を原因とする疾患を中心に、入院による医療が増える特性があることから、後期高齢者が将来にわたり安心して医療が受けられるようにするために、国民皆保険を堅持し、増大する医療費を安定的に賄うため、持続可能な制度を構築することとされ、現役世代と高齢者世代の負担を明確にして、公平でわかりやすい制度とするため独立した医療制度とされました。

この制度がないとあんたたち高齢者は医療にかかれず大変になると脅迫しているようなものだ。「公平でわかりやすい制度」といえば聞こえは良いがその結果、保険料が高騰することは全く述べていない。

Q 後期高齢者医療の保険料はどうなるのですか。
A 被保険者一人ひとりが、後期高齢者医療保険料を負担することとなります。保険料額は、その方の所得に応じて負担する「所得割」と被保険者全員が等しく負担する「被保険者均等割」の合計額です。
この保険料は、広域連合が年度ごとに保険料額を決定し、市町村が決めた支払期ごとに納付します。
ただし、年金から自動的に保険料が支払われる仕組みが導入されます。

被保険者が負担するという当たり前のことなので誰も反発のしようがないが、結局は、家族の保険に入っていたなどの保険料の負担がなかった人は負担が増えることを意味する。

結局負担が増えることとなる

冒頭、「老後の資金計画を立てていて愕然とした」と書いたが、もう少し詳しく書こう。先ず、年を取ると介護保険料が65歳から別途かかるようになる。それ以前もかかっていたが、40歳以上の者は64歳まで、加入の健康保険から天引きされていたのでそれほどの負担を感じるものではなかったが、別途かかるようになるとその金額に驚く。それが先ず1点。

次に、この後期高齢者医療である。例えば国民健康保険に加入していた者が75歳となり後期高齢者医療制度に加入した場合である。

夫婦二人の平均の年金額である世帯の年金額が月額22万円の例で見てみよう。夫が年収186万円(15.5万円/月)、妻が年収78万円(6.5万円/月)とする。わが町の国民健康保険では、夫の所得が186万円-120万円-33万円で33万円となり、妻の所得はゼロ。保険料は年額105,820円となる。これだけなら結構高いとなるが、所得が33万円なので7割の減額となり、31,746円で済む。月にすると二人でたった2,645円である。

これが後期高齢者医療となるとどうなるか。夫は60,000円、妻は25,100円となる。合計85,100円だ。月にすると二人で7,091円。国民健康保険の3倍近くかかるようになる。

健康保険の被扶養者となっていて保険料がかかっていなかった者は新たに負担する金額分100%負担増になることは言うまでもない。

複数世帯であれば下がる場合があるということだが、実際にはどうなのだろうか。
試算してみると確かにそういうときもある。

例えば夫婦のみの世帯で夫婦がそれぞれ240万円の年収があるとする。世帯で480万円の収入で合計所得が240万円となり、わが町の国保料は409,075円となる。これが後期高齢者医療だと一人142,300円となり二人で284,600円と割安になる。

しかし、この例は夫婦それぞれ年金を月に20万円もらっている計算だ。次のサイトを参考にすると月に20万円をもらっている人は僅かであり、それが夫婦二人となると殆どいないだろう。
https://seniorguide.jp/article/1061180.html
ごく一部の恵まれた層の保険料が下がる計算だが、下がる世帯もあるということにウソはない。

国民健康保険は低所得者には優しい制度だが、収入が上がるにつれて負担を増す。公平といえば公平だ。それが、後期高齢者医療では今見たとおり、所得が多い世帯に有利に働く。もちろん、住むところによって保険料の算出方法は異なり一律には言えないかも知れない。あくまでもわが町のことではある。

まとめ

以上見て来たとおり、後期高齢者医療制度は、もともと保険料負担がない人や軽減されている人たちの負担を増やすものである。その分、高齢者の医療費財源負担が減るというものであり、保険制度の持続性に多いに貢献する。

なので、私は後期高齢者医療制度は大賛成である。こうしなければ医療費財政は維持されないだろう。

高齢者医療制度を黎明期から俯瞰すると、医療費を無償化すると財政が堅持されなくなることを無視して無責任な候補に票を入れる、後期高齢者医療制度発足時に内容を確認せず、「名前が悪い」などと説得力のない反対理由を声高に叫ぶなど、いかに国民が愚かだったかということに気が付かされる。

そうしたなか、後期高齢者医療制度を作った意義は大きい。

いずれにしても、反対意見は多かったものの、結果的には国民の支持を得ている。制度を作った者、周知を図る方法を策定した者、皆、本当に天才なのではないだろうか。

参考 高齢者の医療の確保に関する法律、後期高齢者医療制度


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